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プロジェクト・ヘイル・メアリー読んだよー!

 この間、僕が信用を置いている映画評論のチャンネル、ブラックホール(てらさわホーク氏、柳下毅一郎氏、高橋ヨシキ氏の三人が出演)を見ていたら

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 視聴者からの投稿で最近のお薦めのSFは何ですかという質問に柳下氏が「やっぱプロジェクト・ヘイル・メアリーとかじゃない」と言っていたのが気になり、早速アマゾンでチェックした。作者はリドリー・スコット監督によって映画化された「オデッセイ」の原作小説を書いたアンディ・ウィアー。

 キンドル版         単行本     

   

 

 本を見つけたはよいが、値段を見てください。たっけえ!

 まあ、去年出たばかりなので仕方ないのだが、上下で買うと三千円超え・・・。昔の僕なら何も考えずにすぐポチるのだが、緊縮財政の中この金額はな・・・。キンドルで買うかどうかを迷っていると、もしかして図書館にあるのではないか?と思い検索するとあった!ラッキー!

 すぐに翌日に行き、借りられたよ。

               並べると一枚絵になってるのね

   

 動画の中で柳下氏は「太陽が何者かに食われてさ、そっから先はネタバレになるから言えない」とたったそれだけの情報を与えてくれたのだが、もうそれで十分でした。つうか確かにそれ以上何も聞かないで読んで大正解。緩急自在の展開で、あっという間に読み終わってしまいました。

 「オデッセイ」もそうだったのだけれど、主人公は科学者で、次から次へと襲い掛かる困難に知恵と科学の知識で立ち向かう。上げては下げ、の繰り返し。しかし主人公は決してあきらめない。独特のオプティミズムに溢れた冒険科学SF小説でした。もうすでにライアン・ゴズリング主演で映画化が決まっているのだそうです。

 

 さて、この記事をみて興味を持った方、これ以上の情報を入れないで読んでください。僕は図書館で借りたから良いものの、ひょっとして書店で購入しようとすると帯でネタバレしている可能性もあるので注意が必要です。この本は何も知らない状態で読むのが一番面白いと思います。アマゾンの書評もあぶねえから読んじゃいけねえ!

 

 

 

            注意!

ここから「プロジェクト・ヘイル・メアリー」の感想&ネタバレの嵐です!つうか、お話全部書いちゃうよ。

 

 

 

 

 

 ある男が目を覚ますと全く記憶がなく、ロボットアームのようなものに世話をされている。男は長い間昏睡状態にあったようだ。体力の回復とともに徐々に動けるようになり、ようやく周りを確認できるようになるとなんと自分は白いクリーンルームにゆりかごのようなものに横たわっている。室内には他に二名の人間がいるのだが、その二人はミイラ化していたのだった。なぜこんなことに?

 ストーリーは記憶をだんだん取り戻していく過程でなぜ主人公がここにいるのかを明らかにしていく。

 少しずつ記憶がもどっていく男は自分の名が「ライランド・グレース」であり、周囲の状況からどうやら宇宙船に乗っているらしいことがわかる。モニターには太陽が映し出されているので、自分は太陽の調査でやってきたのだと思ったが、黒点の動きを観測しているうちに明らかに目の前の恒星は太陽ではなく、別の星であることに気が付く。

 

 物語は地球で何が起こったかのパートと、宇宙船ヘイル・メアリー号の現在パートの交互で進んでいくのだが、その過程が非常にスリリングで読みやすい。

 

 ある日太陽の観測データに異常が見つかり、輝度が減少していることが解った。太陽の温度も下がっている。どうやら太陽から金星にかけてのペトロヴァ・ラインという原因不明の線状のモヤのようなものが原因らしい。そして調査の結果、未知の大量の微生物がペトロヴァ・ラインを構成していることが判明する。このまま放置しておくと、地球が滅びてしまうのだ!

 グレースは中学の科学の教師をしているのだが、もともとは分子生物専門研究者で水がなくても生物が生存できるという論文を書き、学界から無視され失意のまま去った経歴を持っていた。

 彼は突然やってきたエヴァ・ストラットという女性にこのペトロヴァ問題を解決するように強制的に連行される。エヴァはこの問題の解決のため、あらゆる権限を付与された女性であった。グレースは選択の余地なくアストロファージと名付けたこの微生物を研究した結果、太陽の表面のような環境でも生きることができ、そこでエネルギーを取り込んでそれを蓄え推進力として別の場所に移動できる能力を持っていることが判明する。

 さらなる調査の結果、近隣の恒星もそれぞれ輝度が減少していることが判明する。つまりアストロファージは侵略種であり、その推進力で数光年離れた恒星を次から次へと食い尽くしていくのだ。そして二酸化炭素をエサにしてその数を増やしていく。だから太陽と金星の間にペトロヴァラインが構成されていたのだ。

 

 この辺りから人類の叡智を結集したプロジェクトが進み始める。アストロファージに侵された恒星を観測すると、奇妙なことに地球から13光年離れたタウ・セチという星だけが影響を受けていないことが判明した。

 その原因を探るべく宇宙船ヘイル・メアリー号が造られた。推力はなんとアストロファージ。グレースを中心としたグループはアストロファージの推進力に注目し、燃料として利用する宇宙船を造り上げたのだ。速度は光速の0.9パーセントに達する。

 

 グレースは記憶を断片的に取り戻す中で自分はおそらく科学クルーとして選ばれ、この片道切符の任務に就いたのだと推測した。まあ、実は全てを思い出したときにそうではなかったと解るのだけれど。

 とにかく、つまり、目の前の恒星はタウ・セチであったのだ。実際の地球上の経過時間は13年であるが相対性理論により、宇宙船内の経過時間はおよそ三年ほど。その間に二人のクルーは何らかの原因で死んでしまったらしい。グレースは一人残された自分だけで問題を解決しようと悲壮な決意を固めていた。

 

 さて、ここまではアストロファージというガジェットは出てくるものの、「オデッセイ」的な科学考証を徹底的に積み上げたリアルハードSFが展開されていた。

 ところが!

 この小説はここからが驚きなのだ!

 

             注意!

ここから「プロジェクト・ヘイル・メアリー」の根幹に関わるネタバレの嵐です!よろしいですか?よろしいですね!本当にいいんですね。知らない方がこの小説や映画は面白いと思いますが、書いちゃうよ。

 

 タウ・セチからのペトロヴァ・ラインの観測を始めたグレースは、何か奇妙なものを発見する。それはどう見ても人工的な物体で、発光しながらヘイル・メアリーに近づいてくるではないか。宇宙船だ!「うっそだろう!」と叫ぶグレース!

 

 マジか!なにこの小説!

 

 巨大で平面的な物体はついにメアリーから217メートルのところで静止した。どうやら敵意はないらしい。そのうちに向こうから筒状の物質が送られてきた。船外活動(EVA)によりそれを回収したグレースはそれは非常に高い温度を持っていることに驚く。どうにかして開けたところ、星の位置を表す彫刻のようなものが収まっているのを発見する。ブリップAと名付けたその宇宙船と何度かやり取りしていくうちに、ついに相手が船外にあるロボットアームのようなものを使ってヘイルメアリーとドッキングを成功させる。

 

 いやまさかのファーストコンタクト小説とは思わなかった。だってオデッセイ的な内容を考えていたから余計びっくりした。でもその驚きが非常に心地よい。ああ、情報を遮断して読んでよかった!どんなエイリアンが現れるのかな!

 

 ついに異星の物質でできたエアロックを介してエイリアンと邂逅。その姿は、まるで岩石でできたクモのような形であった!

 大きさはラブラドールくらいで、甲羅から五本の足が放射状に出ており、その先には三本のかぎ状の指がついている。目のようなものは見当たらない。グレースは彼らがやってきた星系にちなんでエリディアンと呼び、彼には「ロッキー」という名前をつけ、コミュニケーションを図ってゆく。

 

 ついに出たエイリアンは上記のような描写です。実際の描写はもっと視覚的ですぐに姿を思い浮かべられる。ただ、僕はですね、まあ僕ぐらいの昭和40年~50年代生まれの方ならご存じの楳図かずお氏の名作「漂流教室」に出てきた怪物を想像したわけです。あれ子供の頃ムチャクチャ怖かったなあ。わからない方は「漂流教室・怪物」でググればすぐに確認できます。

 

 ロッキーは目がなく、音波のようなもので世界を識別する。そうして会話も音階であり、小説内では「♬♪」のような形で表現されている。グレースはパソコンを介して彼らの言葉を少しずつ解読し、ロッキーと意思の疎通を図っていくのだ。

 ここで面白いのはエイリアンのテクノロジーは万能ではなく、むしろ地球のほうが少し進んでいるということだ。

 多くの小説や映画は人類の科学が及ばないような相手に圧倒されるものが多いが、そこはさすがのアンディ、さじ加減が絶妙です。ただエリディアンの方にも彼ら独自のテクノロジーがあり、アスロトファージを地球人よりも上手に活用している。

 

 物語はグレースとロッキーが協力しながらアストロファージ殲滅の手立てを考える方向へと進む。そうしてこの辺りからは映画になった暁には、それはそれは手に汗握るような怒涛の展開が!「オデッセイ」であったように挫折と解決を繰り返し、時に互いに命を危険にさらしながら彼らはついにアスロトファージを制御する手段を発見する。

 本来行きの燃料しか積んでいなかったメアリー号は、ブリップAから大量のアストロファージを分けてもらうことで地球へ帰還できる希望も生まれた。

 かけがえのない友となったロッキーとグレースは宇宙で別れを告げ、それぞれの故郷へと旅立ったのだ・・・と思ったら最後のすげえ展開でまたびっくり。ここはさすがに書きません。しかしこちらの予想を裏切る展開であることは間違いありません。

 

 いやあ長々と書きましたが、やはり良質なSF小説は面白い。映画を見るのが楽しみですよ。ライアン・ゴズリングはあんまりグレースのイメージとはむすびつかないんだけどね。でも読んでいて様々な場面やモノが視覚的に頭の中で構成されるところはやはりこの作者の力量と訳した小野田和子さんの功績でしょう。ほとんどストーリーをバラしましたがそれでも肝心なところは書いていないし、僕のだらだらとした梗概なんかよりもよっぽど本書を読んだ方が面白いので是非どうぞ!

 

僕だって小説は書いたけど

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