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叙述トリック意識して読み、小説「パワードスーツ」無感動

 ここ最近読んだ本。購入はすべてブックオフで、値段はどれも200円以下。

                「夏への扉」は家にあったものを再読

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 以下、ネタバレを含んだ簡単な感想をだらだら書いていきます。

 筒井康隆氏の「ハイデガー」は講演を採録したものらしい。ハイデガー、僕はもちろん読んだことない。同氏の作品「文学部唯野教授」で何度も出てきたし、この本もその流れから出たものだろうけれど、何が書いてあったかといえば一切覚えていない・・・。「モナドの領域」もある程度哲学的な要素を含んだものだった。もちろん氏の作品であるからして最後まですんなり読み通してしまった。神様(とわれわれが呼ぶ存在)がいろいろな人間に憑依して、最終的にテレビ出演し人間の質問に答え、世界のバランスを直した後、何事もなかったように日常が再開するという筒井氏ならではのストーリ運びだった。

 

 こちらは表紙とタイトルで直感的に購入した「パワードスーツ」

            実際このような派手な場面はない

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 この本はおせっかいだ。何故かというと、冒頭に「この本にはある仕掛けがあります」とわざわざ書いてあるのだ。

 こんなこと書いたら、ある程度小説好きの読者だったらああ、叙述トリックがあるんじゃないか、と勘繰ってしまうではないか。実際、そうだったし。だからその箇所にさしかかって僕は「ああ、やっぱりな」と思ってしまい、面白さ半減。

 叙述トリックとは、ミスリードともいわれたりしてるけど、要は小説という形式を生かして主観の移動や描写上のトリックで、「どんでん返し」といえばわかりやすいだろうか。つまり一人称で話を進め、任意で語り手をすり替えることで一見同一人物が語っているようで実は別人だったというような、ああ、だまされた!となる話ですね。

 僕こういうミステリを何冊も読んでいたのでさほど驚きもないまま読み終えてしまった。話の内容もなんだか中途半端だった。

 主人公はパワードスーツと呼ばれる、それを装着することで通常の何倍もの力を発揮できるスーツ(機械)のセールスマンであり、それを地方の医療機関や建設会社などを回って営業している。そんである営業先の都市で老人の連続失踪事件が起き、成り行き上、由香里という女性とその事件を追うことになる。この作品世界では国や社会は老人に対し非常に冷淡であり、政策的にも老人を切り捨てる「スリーノックダウン制」という制度が成り立っていた。そんな中、本社の部長がこのパワードスーツを軍事用にアップデートしたアーマードスーツなる製品を6体持ち出して行方不明だという連絡が入る。そうしてその部長はその赴任先の地方都市に潜伏していた。彼は老人をないがしろにするこの国の制度を見直させるために老人にアーマードスーツを着せてイージス艦を襲撃させようと計画していた。まずはスーツの性能を確かめるために警察署を語り手と一緒に襲撃するのだが、アーマードスーツは思った以上の威力があり、警察署を破壊し、死者も十人以上でる。僕はこの時点で主人公の行動原理に違和感をもって、あれ、これ語り手がいれかわってるんじゃないかな・・・と思ってしまった。案の定その通りだったんだけど、先入観のせいでそういう読み方をしてしまったんだな。

 それにしても老人にスーツを着せてイージス艦襲撃とかすごく面白そうなアイディアなのに、この話では実際にその場面はない。こっちのほうに物語を持っていけばよほど面白かった気がするんだけどなあ。登場人物の印象が薄く、誰が誰だかいまいちわからない印象で前半は盛り上がりなし。頑張って読んでいき、ようやく警察署襲撃で面白そうになってきたのにストーリーはむしろ叙述トリックのほうに力点が置かれた感じで進んでいく。ミステリなのか、SF活劇なのかどっちつかず。最後にパワードスーツ6体を相手に主人公が立ち向かう寸前で終劇。あらら。この続きを書けば盛り上がるのに、というところで物語が終わってしまった感、半端ない。

 

 僕が最初にこの叙述トリックを使った作品を読んだのは上述の筒井康隆氏の作品「ロートレック荘事件」だった。

 もう2~30年くらい前

ロートレック荘事件(新潮文庫)

ロートレック荘事件(新潮文庫)

 

  筒井氏といえばSFやスラップスティックがその作風だけれど、この作品はミステリ。このころは「富豪刑事」などミステリ系の作品をものしていた。富豪刑事って何故か主人公が女性になって映像化されてたけど、なんで?

 業界の事情があるのかね。プリンセストヨトミとかもそうだけどさ

第一話 富豪刑事の囮

第一話 富豪刑事の囮

  • 発売日: 2016/04/01
  • メディア: Prime Video
 

 「ロートレック荘事件」は帯に「映像化不可能」と書かれていたが、まさにそのとおりで、初めて読んだときは新鮮な驚きに包まれたっけ。すげえ、さすが筒井康隆!と感動したなあ。中編程度の長さなので、手軽に読めておすすめ。

 

 トリック考えるって大変だな。続きはまた後で

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