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受験古文参考書から無理やりネタ拾い

 Z会という有名な教育関係の会社があって、そこからこういう参考書が出ている。

古文上達 基礎編 読解と演習45

古文上達 基礎編 読解と演習45

 

  仕事柄何の気無しにパラパラめくってみると、この参考書、一番最初に載っている例文がいきなり面白くて笑ってしまった。そのことはかなり前にこちらに書いた。

www.otominarukami.tokyo

 そして、他の例文に関してもなんだか妙に面白いものばかりで、選定者の趣味がうっすら感じられる。古文に興味のない高校生を少しでも話のおもしろさで惹きつけようという趣旨なのか、それとも単にこういう話が好きでノリノリで選んだのか。とにかく僕はそのノリが好きでこの参考書を手元に置いてあるのです。

 

 いくつかの例文をご紹介します。

 例えばミエを張ってひどい目にあう婿の話。

 

 婿に入ったアホ男がしばらくは気取って過ごしていたが、カッコつけて少食を装っていた。しかし腹が減ってとうとう我慢できず、妻のいない隙に意地汚くもコメをつまみ食いしてしまった。するとタイミング悪く妻が帰ってきて、男は頬をふくらませたままどうすることもできなくなってしまった。顔は真っ赤、婿は話もしない。心配した妻はそれを腫れ物と勘違いして大騒ぎした挙句、その腫れ物を治療させようと医者を呼ぶところまでいってしまった。しかもその医者がヤブ!

 

「ゆゆしき御大事のものなり。とくとく療治し参らせん」とて、火針を赤く焼きて、頬を通したれば、米のほろほろとこぼれてけり。

 

 医者は熱した針を頬に当てるというバイオレントな治療を決行、その結果頬に穴があいてそこからほろほろとコメが出てきましたとさ、というヒドイオチ。

 

これは『沙石集』という有名な仏教説話集に収録されてます。なんか気持ち悪いね。

 

 次は成城大学で出題されたという話。

 

 あるひと、まだ朝まだき、宮へ参るに拝殿の天井にこちたくもうごめくものあり。いぶかしかりければ、よくよくこれを見るに、大きなる蜘蛛、己が糸にて人を巻き、首筋に食ひつきてゐたり・・・。

 

 ある人が朝早く宮中へ参上すると、なんと大蜘蛛に巻かれている人を発見!その蜘蛛は首筋に食いついている!ロード・オブ・ザ・リング」の大蜘蛛シェロブか!蜘蛛はそのまま逃げてしまい、糸にぐるぐる巻きにされている人を助けると、次のような話を語りだした。

 

 ・・・私は旅のものですが、泊まるところもないのでここを一晩借りようと思っていたところ、あとからもう一人疲れた顔をした琵琶法師がやってきたのです。お互いに旅の話をしていると、法師が優雅な香箱を取り出してこちらに投げて「これがよいものかどうか見てください」というではないですか。そこで右手にとってみるとトリモチのように張り付き、左手で押さえてもまた取れません。仕方がないので両足で取ろうとしたところ足もくっついてしまったのです!

 

 なんだか間抜けな話だけれど、この後法師は蜘蛛に姿を替えて襲いかかるのだ。そうして血を吸っているうちにあるひとに見つけられ命からがら助かったというわけ。香料の箱が罠になって、トリモチのようにベタベタだというところに独特の発想を感じる。出典は江戸時代の『御伽物語』。

 

 次に実戦問題16から。

 

 ある家で雇った女が、自らの首を取って鏡台にかけて化粧をしていたのを主人の妻が目撃し仰天。そりゃそうだろう。主人に相談したところ、下手に動いて恐ろしい目にあうよりは何人かに暇を出してその中の一人にしてしまおう、となった。妻がそのことを女に伝えた瞬間

「さては、何そご覧じて、かく仰せ候ふやらん」

・・・何かをごらんになってこのようにもうしあげるのでしょう!と豹変し、飛びかかってくる!しかし夫はこんなこともあろうかと後ろに控えており、刀で切り倒した。弱ったところをさらにメッタ斬り!なんと年老いた猫だった!

 

 問題文はここで終わり。これなんとセンター試験での問題文。出典は『曽呂利物語』というかなりマニアックな怪談集。

 

 死んだ妻が幽霊となって一晩だけ帰ってくる話などを挟んで実戦問題26は『宇治拾遺物語』、「柿の木に仏現ずる事」。

 

 昔、延喜の帝の御時、五条の天神のあたりに、大きなる柿の木の、実ならぬあり。その木の上に仏現れておはします。京中の人こぞりて参りけり。

 

 ある日突然、実のならない柿の木のてっぺんに仏が現れるという不思議な出来事。京の人はみなありがたがってお参りした。それが5~6日続いたある日、右大臣が末世に仏がいらっしゃるのは変だろ、と正装して高級牛車に乗って参上した。そうしてその仏を脇目もせずじーっと見つめた。すると・・・

 

 この仏しばしこそ花ふらせ、光をも放ち給ひけれ、あまりにあまりにまもられて、しわびて大きなる糞鳶の羽折れたる、土に落ちて惑ひふためくを、童ども寄りて撃ち殺してけり。

 

 この仏はしばらくは花もふらせて光を放ってはいたけれど、あまりに、あまりに見つめられてしなびて、羽の折れた大きな糞鳶(くそとび)となってその姿を現した。そのまま地面に落ちて、もがいていたのを子供たちが寄ってたかって撃ち殺してしまった。

 

 オウ、こちらもバイオレント!僕この話好き。仏の姿をして人々に崇められていた糞鳶の虚栄心が哀れだ。別に悪さをするわけじゃないんだから、少しぐらい多めに見てやればいいのにねえ。そして袋叩きの末に殺されるという。

 この話は右大臣の「いみじくかしこきひと」である様子をほめたたえているが、その一方でニセの仏をありがたがる人々の滑稽さも描いている。いつの世でも人はだまされるのだなあ。

  

 とまあ、いくつかの話を列挙しましたが、疲れましたのでこれにて終了です。また気が向いたらオモロー古典について書きたいですね。

 

話題がないときの古典だのみ

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