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ヴィデオドロームで見た夢 2

ヴィデオドロームの話しの続き。 昨日の記事からの続きですのですいません。

ビデオドローム [DVD]

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 マックスはニッキー疾走の手がかりを求めるためにオブリビオン教授の元を訪ねる。そこは「ブラウン管伝道所」という名の何やら怪しげな宗教めいた施設であり、娘のビアンカオブリビオンによって運営されていた。ホームレスが集まったその建物の中にはパーテーションで仕切られたテレビ視聴ルームがあり、社会的弱者である彼らはそこでテレビを見ることによって一時の苦しみや悩みを忘れ、その場限りの快楽に委ねる。現在においてこれがネットに置き換わっていることは言うまでもないだろう。まるでネットカフェだ。

 マックスはビアンカに教授との会見を要求するが断られる。しかしその後、彼女から一本のピデオテープが送られてくる。

 

 そしてこのあたりからマックスは幻覚に悩まされ始めるようになる。ビアンカに渡されたビデオテープを手に持った瞬間、そいつは身をくねらせ、「ふわぁ」と悩ましげに吐息をもらす。思わずテープを取り落とすマックス。しかし次の瞬間にはただのベータビデオテープに戻っているではないか。狐につままれたような面持ちで、ビアンカに手渡されたビデオを再生すると教授は「テレビこそが現実なのだ」などと到底肯定しかねる理論を語り始め、すぐに辟易するマックス。しかし、なんということだろう、突然ビデオの教授が「マックス」と呼びかける!そして画面の中で唐突に覆面をした人物が現れ、教授の首を絞める。「私が・・・最初の・・ヴィデオドロームの犠牲者だ」と言い残して絶命する教授。そして覆面をとった人物はなんとニッキーであった!そして画面の中の彼女が「ニッキーのところに来て」と語りかけ、その間にテレビが脈打ちはじめるのだ。グニャグニャといびつな形にテレビはゆがみ始め、ブラウン管の画面は膨らみニッキーの唇がいっぱいに映し出される。そしてそこに顔を埋めるマックス。この背景で静かに流れるハワード・ショアのパイプオルガンの音色のようなスコアが不気味さを増す。

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 マックスはビアンカを再び訪ねる。いらだちを隠さないマックスを見たビアンカ

「あなたを敵かと思ったの。ごめんなさい。父に会わるわ。でも失望しないでね」

と重々しい扉を開ける。そこにあったのはおびただしい数のビデオテープだった。教授は自分の死を予感し、あらゆる状況に対応できる自分の言説をすべてビデオに残していたのだ。ビアンカ「父はビデオドロームに殺された」と告白し、数本のビデオがマックスに手渡された。

 

 異様な世界に少しずつ足を踏み入れ始め、身の危険を感じたマックスは拳銃を手に入れ、上半身裸の状態でホルスターをかけ一人で教授のビデオを見始める。教授は頭の中に腫瘍が生まれたといい、それはヴィデオドロームの影響だと語る。しかしそれは新たな人間の進化の段階であると主張する。それはマクルーハンの言う、身体の拡張性か?ビデオを見ることによって人間の意識は拡大し、幻覚の世界に自己を没入させ、肉体を放擲することができるのか?拳銃を弄びながら画面に見入っていたマックスはふと自分の腹が縦に裂けていることに気づく。しかもそれに驚くどころか彼は拳銃をその中につっこみ始めるのだ。当然ここにはあからさまにセクシャルなメタファーが表現されている。そしてどんどん拳銃を自分の腹に押し込んでいくマックスはその行為を止めることができず、自分の手までも肉体の中に埋めてしまうのだ!

 この部分の特殊メイクは当時としてはかなり良く出来ており、本当に腹の中に手が入ってしまったように見える場面がある。リックベイカーの技術は超一流だ。彼もおそらく少ない予算の中、自分の限界を試す意味でこの映画にチャレンジしたのではないだろうか。

 当時はこのように特殊メイクアップアーティストが脚光を浴びた時代でもあった。僕は中子真治氏の著作から何人ものメイクアップアーティストの名前を覚えた。「エクソシスト」のディック・スミス、クローネンバーグの傑作「スキャナーズ」でハゲおじさんの頭を吹き飛ばしたリック・ウェイラス、

その筋ではあまりに有名なこのシーン。当時、なんとこれを普通にテレビでCMに流していた

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遊星からの物体X」でその名をはせたロブ・ボッティン

ワンちゃんがとんでもないことに

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「ゾンビ」シリーズを手がけたジョージ・A・ロメロ作品には欠かせないトム・サヴィーニ

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「ビヨンド」などをはじめとするルチオ・フルチ作品でお馴染みのイタリアスプラッタホラー界の重鎮ジャネット・デ・ロッシ

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「エイリアン」のカルロ・ランバルディ、

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そしてこの作品を手がけたリック・ベイカー。この部分、僕はググらなくても一気に書ける。だからどうしたということもないけれど。

 

今日もあすへと続く

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