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ハンターズ・ラン 読みました。バディものSFだった

こちらの作品

3人の共作という珍しい形のSF 

ハンターズ・ラン (ハヤカワ文庫SF)

ハンターズ・ラン (ハヤカワ文庫SF)

 

 

  はるか遠い未来、人類は宇宙へ進出し、その無限の可能性に多いなる期待を抱いていた。しかし実際のところ、銀河は既に銀のエニェ・トゥルなどの他種族によって探査し尽くされており、人類は彼らが見向きもしなかった未開の惑星を開拓する状況に甘んじていた。

 そんな惑星の一つであるサン・パウロ(この物語はヒスパニック系が進出している惑星が舞台となっている)で鉱山掘師をしているラモン・エスペホは、ある日全く自由のきかない見知らぬ場所で目覚める。

 彼は成り行き上、飲み屋で執拗に同行の女性に絡んでいたエウロパの特使を殺害してしまったのだ。周りにけしかけられ、酔って調子に乗ったラモンは本来なら開拓地のドサクサで逃げおおせることもできるはずだったが、相手が悪かった。

 折しもサン・パウロには銀のエニェが航行途中で立ち寄ることになっていた。宇宙航行技術が発達したとは言え、光速で移動するのは限界がある。それはどんな異種族でも同様で、独自の技術を持つエニェさえも例外ではない。つまり数十年、場合によっては数百年に一度のエニェの来訪の時に特使が殺害されたのである。

 当局はメンツにかけても犯人を検挙するだろう。そこでラモンは、しばらくほとぼりが覚めるまで北の未開の地に出ることにした。

 ラモンは荒くれ者だった。酒を浴びるようにのみ、すぐにいざこざを起こし、彼の情婦のエレンとも喧嘩のしどおしだ。

 

 SFにしては珍しいことに主人公がヒスパニック系に設定されている。そして物語の舞台そのものも「惑星サン・パウロ」という名の示すとおり、ブラジル/南アメリカのイメージが前面に出ている。だからこの後、大森林の描写が出てくるのだけれど、当然読者はアマゾンの密林をそこに重ねるだろう。異星の物語というより、現実の南アメリカのジャングルの中で起きる事件のような感覚で読むという不思議な読書体験ができる。

 

 おんぼろのエアカーで未開の地に到着したラモンはある山腹に違和感を覚える。彼はそこに発破を仕掛け、爆発させる。するとなんとそこに銀色の金属面が現れた。明らかに人工物である。いったい誰が、何のために?なんとなく嫌な予感を覚えたラモンはその場を離れるが直後に四角い、白い箱のような物体が彼を追ってくる。ラモンはなんとかバンにたどり着こうとするが、彼の目の前で車は爆発しそこからの記憶がなくなっている・・・。

 そして目覚めたラモンは見たこともない異種族にとらわれていた。体調は二m以上はある、黒くヌメヌメとした、まるでカオナシのような異星人。オレンジ色の小さい目。そしてマネックと名乗る異星人と彼は喉にサハエルと呼ばれる肉の紐(この発想が出色)によって繋げられ、ラモンは逃げることができない。このサハエルはストーリー上重要な役割を果たしている。ラモンが反抗的な態度をとったり、笑ったり(笑いが禁じられる!)するとこのサハエルを通じて苦痛が与えられるのだ。まるで孫悟空の頭の輪と同じだ。

そして異星人はラモンに命じる。だいたいこんな感じです。

「お前には実行する職能がある、なぜならお前の存在意義はお前のタテクレウデを実行することにあり、それに疑問を持つことはお前がアウブレに傾いていることであり・・・・」

 このあたりは訳出するのにかなり工夫を凝らしたことだろう。異星人の考えを奇妙な文法と単語で表記しているのだ。そしてその試みはかなり成功している。

 

 結局のところラモンは3日前に異星人たちを発見した男を探せという目的を与えられ、マネックとともにジャングルを南下することになる。

 様々な逃走する男の痕跡を発見し、追跡するマネックとラモン。しかし少し読むうちに気づく。おや、この逃げた男ってラモンじゃないのか?何らかの理由でもうひとりのラモンが存在し、本物を追跡させられているのでは?

 

 果たしてその疑問は予測通りで、マネックと一緒にいるラモンはラモンの複製だった!本物のラモンは逃げる途中で指を吹き飛ばされたが、かろうじて逃げおおせた。そしてその指の細胞から作られたのがハンターラモンだというわけだ。ただ、この話のミソは個体をそのまま複製するだけではなく、経験や記憶までもそっくりそのまま移植されているという点だ。だからハンターラモンはまだ若く、本物ラモンとは多少の容姿の食い違いがあるのだがそれもいずれは彼そのものになるという。

 

 追跡途中にその事実に気づくハンターラモンは愕然とするが、マネックと肉の紐=サハエルでつながれている彼は自分の分身を追跡するしかない。しかし、本物のラモンはしぶどい男だった。まず彼らの乗る白い乗り物を罠で破壊することに成功する。

 船は使いもにならず、マネックもまた負傷する。仕方なく徒歩で追跡する彼らだが、ラモンはそのうちにサハエルを通じてラモンはマネックたちがなぜこんな辺境の星にいるのか、その理由を知る。マネックたちはなんとこの時期にちょうど惑星サン・パウロへ立ち寄った宇宙航行種族の銀のエニェの食料種族だったのだ。

 だからマネックたちはエニェたちに見つからないような辺境の惑星でひっそりと暮らしていたのだ。しかし、そこへラモンがやってきて彼らを発見してしまった。もしラモンが都市に辿り着きそのことを報告すれば種族の絶滅は必至だ。

 一方でラモンはエニェが辺境に人類を連れ出し、自由に活動させているのはマネックの種族を発見するためではないのかと考え始める。とどのつまりは人類もエニェに利用されているだけなのだ。

 

 このあたりからマネックとラモンの関係に若干の変化が見られる。このへんまで読んで僕はあ、これバディものだ!と理解した。いわゆる相棒どうしが活躍する話だ。その変形じゃん。

 徐々にラモンを追い詰めるマネックとハンターラモンだったが途中、森の凶暴な獣チュパカブラに襲われた際に、マネックはその獣と格闘になり、はずみでサハエルがラモンの喉から離れた。ラモンはその隙を逃さず逃げ出す。

 

 さてここからどうなるのか?なんと今度は本物のラモンと出会うのだ!しかし本物は若いハンターラモンを自分とは思っていないようだ。そして今度はこの二人のバディものになるのだ!

 

 物語はこのあと彼らに相当な試練を与える。二人のラモンは?マネックの行く末は?三人の叡智が作り上げたこの小説は思いもよらない展開を店、最後は粋な終わり方を迎える。

 とにかく異星の話というよりはアマゾンのジャングルを探検しているような錯覚に陥る、不思議なSF作品だった。

 

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