SFに限ることではないだろうけれど、作品というのは当然その作者によって十人十色だ。ある程度その作家の作品を読んでいけばそれなりの傾向はつかめる。
ディックの作品は多くの場合アイデンティティの問題が登場する。「ブレードランナー」の原作としてあまりにも有名な『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』では自分が人間かアンドロイドか疑う捜査官が登場し、『ユービック』では瀕死の社長をなんとか助けようとしていたチームが実は瀕死状態であり、かの有名な映画『トータル・リコール』では疑似体験か真実かの区別が曖昧だし、『スキャナー・ダークリー』では・・・
ってこんないろいろ書いてますが、すいません、すべてのディック作品を僕は読んだ訳ではないので偉そうな口きくのやめよっと。
とはいえ、この『タイタンのゲーム・プレーヤー』でもやはり現実と幻覚の境界がぼやけていく場面はしっかりと登場し、ああ、ディックだなあと思えるのです。
- 作者: フィリップ・K.ディック,Philip K. Dick,大森望
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1990/03
- メディア: 文庫
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SFの常なのだが、まずしばらくはこの小説の世界観を理解するため、当たり前のように出てくる用語や場面設定を我慢して読まなければならない。まあ、僕はそういうものが次第に明らかになっていくのがSFの醍醐味だと思っているので、苦になりませんが。
近未来、地球規模の戦争後の世界。中国が人間の繁殖能力を抑制する兵器を使ったため、地球の人口は一向に増えなかった。その代わり、医療技術の進歩によって人間は年齢が高くなっても肉体的には若さを保つことができた。
全世界の土地はバインドマン(地縛者)と呼ばれる特権階級の人間たちによって統治されており、バインドマンたちはその土地の権利書を「ゲーム」によって奪い、奪われていた。
「ゲーム」はこの小説独特のゲームだ。ひと組の男女(夫婦)が数組集まってチームを構成し、ライバルのチームや新参者のバインドマンと夜毎ゲームに興じているのだった。ちなみにこの「ゲーム」はタイタン人という不定形の生物(地球人は彼らをヴァグと呼ぶ)が考案したゲームであり、地球人は彼らの緩やかな支配下にあるのだ。数字カードを引いて(その数字はプレーヤーしか知らない)コマを進め、そのコマが止まった場所には様々な条件が書かれている。例えば「土地の開発に成功!7万ドルを手にしました」といった具合だ。ただプレーヤーは引いた数についてハッタリをかまして勝手に条件の良いコマへすすめることもできる。それを「ブラフ」といい、それを相手チームに見破られれば不利になるが、うまくブラフできればゲームを有利に進めることができるという「人生ゲーム+ダウト」のようなルールである。
何故タイタン人が支配しているのか、という背景がいまいちわからない上に(一応人類とタイタン人の間で戦争があったようだ。人類の負け)、様々な人物が交錯するので??と思う場面もいくつかあったのだが、そのあたりは雰囲気として読み飛ばす。
主人公であるピート・ガーデンはある夜、ゲームで負けてしまい一番大事にしていった地所であるバークレーを手放してしまう。しかもそのバークレーの権利は売りに出され、最も力と運(ラック)のあるバインドマン、ジェローム・ラックマンの手に渡ってしまう。ラックマンはその名のとおり、強力な「ラック」の持ち主だった。この小説世界でのラックはすなわち子供を持つことである。
ゲーム・プレイヤーたちは子孫を増やすために、ある程度の期間夫婦となり、子供ができなければ離婚し、次のパートナーと結婚するということを繰り返していた。
ラックマンは十数人の子供を作り、それゆえ強力な運が付いているとみなされている。そのラックマンがピートの地所の権利を手に入れ、そのツテでピートたちのグループ「きれいな青狐」のゲームに参加する。そして早速ラックマンは勝利し、権利書を手に入れるのだが、その後死体で発見される!
ラックマンの死の嫌疑がピートたちにかかるが、なんとピートを含むメンバーの6人が全員記憶を失っていた。
ヴァグ、ゲームといった設定に加え、物語世界にはプレコグ(預言者)テレパスといったサイ能力、いわゆる超能力者が登場しさらに謎を深める。
もうなんだかいろいろとっちらかった記事で申し訳ありませんが、物語もかなりとっちらかっており、さらに混沌としてくるのです。ヴァグ(タイタン人)はもともとは不定形であるけれども人間の姿に変わることもできるし、加えてサイ能力を持つ者もいる。そうしてヴァグの中でも様々な階級が存在し、人間を滅ぼそうと画策する集団もいるのだ。
そんな中、ある日新しくピートの妻となったキャロルが妊娠する。この時代、その事実は大ニュースであり、ピートは有頂天になる。しかし彼は薬をキメ、酒をしこたま飲んでどんちゃん騒ぎをやらかした挙句、人間だかヴァグだかわからない相手に接触し、そのご自分の土地の住人であるパトリシアという女性とその夫に拉致されてしまう。彼らはヴァグの中でも急進派で、繁殖能力の高い人間を抹殺しようとしていた。ラックマンはその犠牲となっていたのだ。
そしてパトリシアの娘のメアリアンはサイコキネシスで、途方もない力を秘めていた。拉致されたピートは、自分がヴァグなのか人間なのかと錯乱したメアリアンが彼女の母パトリシアを含むメンバーを虐殺するのを目の当たりにする。
もうこのあたりで多少、物語が破綻している気配はあるのだけれど(結局パトリシアをはじめとする集団はなんだったのかとか)そういうもんを抜きにして読み進めると、最終的にピートたちはタイタンのゲーム・プレーヤーと呼ばれるヴァグたちとゲームで戦うことになる。この戦いの行く末が意外な展開で実に面白い。そうしてラストはなんだろう、よくあるB級映画のラストみたいだ。つまり、すべての問題が解決したと思ったら実は・・・的な感じ。
今まで僕が書いたSF小説記事の中でも一番収拾がつかないモノになってしまいました。『タイタンのゲーム・プレーヤー』はディックの作品の中でも割と評価が低い作品ですが、それでもディック、十分読み応えはありますよ!
ディックの足元にも及びません