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『星を継ぐもの』は今読んでも色あせない普遍性を持ったハードSFだった

 

 今更ですがハードSFの傑作『星を継ぐもの』J.P.ホーガン作 1977年)をあっという間に読み終わりました。評判にたがわず大満足の一冊だった。

ミックス版も注文した

星を継ぐもの (創元SF文庫)

星を継ぐもの (創元SF文庫)

 

 

 ただ、この話、3部作構成でその第一部なのであります。現在続編の『ガニメデの優しい巨人』を鋭意読書中。

 

              激しくネタバレをします!

 

 月を二人の人間が歩いている。一人はコリエルという名前で大男、もうひとりは深紅の宇宙服を着ている。やがて深紅の宇宙服の男は歩けなくなり、コリエルは彼を洞窟に安置し、必ず助けに来ると約束し彼一人ゴーダと呼ばれる基地へ向かって歩き始める。

 

 実はこの出来事は5万年前の出来事であった。洞窟に取り残された深紅の宇宙服の男は人類によって月で発見される。チャーリーと名付けられた彼はどこからどう見ても人間だった。しかし5万年も前にどうしてこのような高度な文明をもった人間が月にいたのか?

 

 謎が謎を呼ぶ展開でのっけからワクワクさせられる。その謎を解く中心人物としてトライマグニスコープという物質を透視できる装置を開発した天才科学者ヴィクター・ハントが登場する。彼は鋭い洞察力を持って様々な角度から事象を検討し仮説を組立て、チャーリーの謎に迫ってゆく。その過程はまるでSF版シャーロック・ホームズだ。

 

 一方でワトソンの役回りとはちと違うが、もうひとりの科学者としてクリス・ダンチェッカーという優秀ではあるが少々頭の固い生物学者が登場する。

 チャーリーを詳細に調べたダンチェッカーは、チャーリーが人類と全く同じ生物だという結論に達し、そこから導き出される事実として5万年前にすでに人類は高度な文明を築いていたという主張を強硬に展開する。しかし一方でそのような高度な文明を築いた人類がいたとしたなら、なぜその遺跡が一切ないのだろう。その点でダンチェッカーの主張は完璧さを欠いていた。

 ハントはチャーリーの所持品をスコープで透視したところ、様々な情報が書かれたメモを発見する。このあたりから少しずつ異星人=ルナリアン(月で見つかったことに由来するチャーリーたちの呼び名)の謎が解き明かされていく。

 

 この過程もかなりスリリングだ。あらゆる人類の叡智が結集した様々なチーム(例えば言語学や数学など)は躍起になってメモから情報を得ようとする。そうしてハントの示唆により、カレンダーらしきものが割り出されたのだが、それは明らかに地球の暦と違うものだった。これはダンチェッカーの主張を裏付けるものではない。

 そして決定的なのは、チャーリーの携帯していた食料である魚らしき生物の骨格であった。それは地球の生物には全く見られない特徴を持っていたのだ!

 

 全く同じヒトであるというのに地球産ではない生物を食料としていたとはどういうことなのだろう。読者は科学者たちと一緒に頭をひねることになる。そんな折にさらに問題を複雑化させる出来事が起こる。

 

 なんと木星の衛星ガニメデで未知の巨大宇宙船が難破船として発見されたのだ。しかも、その宇宙船の年代はルナリアンの生きていた5万年をはるかに遡る2500万年前だったのだ。そして調査の結果、乗組員はルナリアンとは全く体構造を異にする巨大な種族だった。新たな異星人(ガニメデに掛けてガメニアンと名付けられる)の登場により、事態はさらなる混迷を迎える。

 

 謎はチャーリーの日誌を解読することにより、少しずつ解けていく。チャーリーたちの種族は二つに分かれ戦争していたという。そうしてチャーリーは月面での戦闘を経験しており、その一部始終が記録されていたのだ。一方その手記の中で月から見える彼らの惑星は、はっきりそれとわかるほど戦火を増していた。

 

 暦や地図その他の資料から、どうやらその惑星は太陽系に位置していたらしい。そして其の位置とは火星と木製の間、現在の小惑星帯である可能性が非常に高いことがわかった。つまり彼らの母星(=ミネルヴァと名付けられる)はおそらく戦争が原因で取り返しのつかない結果・・・惑星の崩壊という結末を迎えたのだった。ではなぜミネルヴァの月で遭難したチャーリーが地球の月で発見されたのか?

 

 その謎が解ける前に、ガメニアン船の調査にもかなりの進展が見られるようになった。大量の動物の標本が発見されたのだ。ここにおいてハントとダンチェッカーはガニメデへと向かう。ハントは性格的に全体を統括する立場にあり、また性格も温厚なため、頑固な科学者ダンチェッカーともやがて打ち解け、二人で協力してガメニアンとルナリアン謎に立ち向かってゆくことになる。

 

 そして彼らの調査の結果、もともとミネルヴァという惑星はガメニアンの惑星であり、人類やルナリアンよりも進化していた彼らは地球に訪れ、大量の動植物を持ち帰りミネルヴァに移植しようとしたらしい。その原因はミネルヴァなき現在では明らかではないが、おそらくは二酸化炭素の増加を防ぐためだったのではないかとハントたちは推論する。しかしその増加に対応できなかったミネルヴァの固有生物たちは(特に陸生)死滅し、移植された地球種が新しい環境に対応した。

 その後、ガメニアンたちは何らかの理由でミネルヴァを去った。その原因ははっきりしない。しかしミネルヴァに移住した類人猿たちはそこで進化し、ルナリアンとなったのだ!だから人類と特徴が同じなのは当然なのである。

 そして地球の人類よりも早い進化を遂げたヒトは文明を起こし、自ら滅びたのだった。そしてミネルヴァの月でチャーリーを始めとするルナリアンはそれを目の当たりにしたのだ。

 

 しかし、そのルナリアンの末裔たちがなぜ地球の月で発見されたのか?

 

 ハントはガニメデの表面を歩き、巨大な木星を眺め、ある霊感に襲われる。そうか!そうだったのか!・・・と。

 ハントは地球に向けて科学者たちを集めるように求め、ガニメデから彼の到達した結論を発表する。なぜミネルヴァの月にいたチャーリーは地球の月で発見されたのか。

 

   そこから導き出される結論はただ一つ、どちらも同じ月だったのだ。

 

 ミネルヴァが戦争によって破壊されたとき、ミネルヴァの月はその引力に釣り合う相手を失って太陽へと向かい始めたのだ。そして万に一つの偶然が起こった。ミネルヴァの月は地球の近くを通過するときにその引力に捕まって今度は地球の月になったのだ。

 

 なんという設定なのだ。壮大な謎解きはここに幕を引くことになる。

 

 この話の中では、月の裏側は表面と地質的に全く違う表層に覆われていることになっている。なぜかといえばそれは吹き飛んだミネルヴァの残骸が堆積したからなのだ。そうして月の裏側(ミネルヴァからすれば表)にいたルナリアンたちだけが生き残り、彼らは最後の力を振り絞り地球へと向かった。そうしてルナリアンはその頃地球を支配していたネアンデルタール人を駆逐し、新たな人類の祖先となった。

 

 ちなみに現在では月の生成は巨大な原始惑星が原始地球にぶつかって、その破片が月になったとされる説が最も有力である。だから明らかにこのストーリーは科学的に齟齬があるのだけれど、この話が書かれた1977年ということを考えると非常に良く出来た設定であるといえる。

 

 こうしてルナリアンの起源とミネルヴァの謎を解いたハントは続編の『ガニメデの優しい巨人』で新たな謎やワンダーに遭遇することになる。早く読み終わりたいよ!

 

 僕が読んでいないSFはまだまだ無数にあるということを改めて感じた小説だ。

 僕は死ぬまでにあとどのくらい読めるのだろう?

 しかしまだ見ぬ、まだ知らぬストーリーを想像するだけでワクワクするじゃないか!

 

 それにしても書きすぎ。一体どれほどの人がこれを読んでくれるのだろうか?

 

こちらもよかったら読んでください。SFではないけれど。

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