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浴室読書日記/クラーク『渇きの海』

         お風呂で読んだ本の紹介三日連続の二日目。        

 

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渇きの海

渇きの海

 

 

 言わずと知れたSFの巨匠、アーサー・C・クラークの作品。今読んでも十分読み応えがある。

 『渇きの海』は1969年のアポロ11号による月面着陸以前に書かれた作品だ。ニール・アームストロングが月に降り立った瞬間、SF作家の役割は終わったんじゃないですか、と当時筒井康隆氏が何かしらのインタビューで言われたそうだが、SFってそういうもんじゃない。確かに、月を舞台にした小説はいくつかの点で修正を余儀なくされたかもしれないけれど。

 例えば当時月の表面は細かい粒子で覆われていて月着陸船は沈むのではないか、などという主張がまことしやかになされていたらしい。この小説もそういった場所が月にあると仮定しての作品だ。文体はやや大仰な比喩や言い回しが鼻につくところがあるものの、クラーク先生の巧み、かつ確かなストーリーテリングでそれも気にならなくなる。

 

 タイトルの「渇きの海」というのは細かい粒子で出来た底なし沼のような地域で、一度そこに沈めば二度と脱出不可能な場所として登場する。作品世界ではその渇きの海は月の観光スポットであり、その砂の海の上を宇宙船「セレーネ号」が定期的に就航している。ところがセレーネ号は男女22人の乗客を載せて帰港中、突如起こった陥没に巻き込まれてしまう。この部分は巨大なすり鉢状の穴の淵をなんとか回避しようとするセレーネ号の緊迫感あふれる描写が見事だ。

 僕は月の風景が大好きなので、

    この頃の記事、ほとんど誰にも読まれてません。 

otominarukami.hatenablog.com

  太陽に照らされた月に出現した灰色の蟻地獄と、そこに囚われそうになった小さな宇宙船が必死に逃れようとする、その絵がありありと浮かび、さすがクラーク先生!と感服した。

 僕がクラークの作品を初めて読んだのは高校生くらいの時にテレビで放映された『2001年宇宙の旅』鑑賞がきっかけだ。あまりにも偉大なこの作品、ブルーレイも購入したけれどアマゾンプライムで見放題ってヒドクナイカ。 

2001年宇宙の旅 (字幕版)
 

 

 監督のスタンリー・キューブリックの功績ももちろん大きいこの映画の宇宙空間は無音、もしくはヨハンシュトラウスのクラシックという演出はSFXは流石にしょぼさは否めないものの、50年近く昔の作品と考えると、スター・ウォーズと同様におそらくこの先100年間だって人々に見られ続ける作品だろう。

 

 さて、渇きの海に沈んだセレーネ号に対して、必死の救出作戦が行われる。乗客22人の描写はさすがに多すぎて誰が誰だかわからないが、主要な人物は適確にわかりやすく活躍するのでそんなに気にする必用もない。基本的に安堵→ピンチ→安堵→ピンチの連続なので飽きることはなく、読者は最後までこの救出劇にそわそわすることになる。まあ、予想通り大団円で終わるのですが。

 そうそう、この小説を読んだひとつの発見は、救出を中継しようとする新聞記者がチャーターした宇宙船の名前が「オーリガ号」だったこと。僕は即座にあ!これ「映画エイリアン4」に出てきた宇宙船の名前じゃないか!なるほど!とポンコツ知識が発動。SFファンならではの発見。

 ちなみに「エイリアン」1作目の宇宙船は「ノストロモ号」。2の宇宙船「スラコ号」。3は2と同じで、あとは最近の「プロメテウス」と「コヴェナント」になるわけだけれど、直近の二つはムリヤリ神話的意味を持たせようとして少しうざったいな。

 

月に関わりはあります

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