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小説『ヘビーメタルと文芸少女』でのメタリカ引用

 昨日に引き続き、ごく一部で好評を頂いている(?)、僕の執筆した素人小説『ヘビーメタルと文芸少女』のカクヨムにおいて5000PVを突破した、独りよがり記念記事です。

 

kakuyomu.jp

 

 昨日は『バッテリー』と『マスターオブパペッツ』についての場面を引用したけれど、今日はクライマックスの講堂でのライヴシーンのハイライト、『ONE』。

こちらのアルバムに収録。

 

And Justice for All

And Justice for All

 

 

 この曲でメタリカは初めてPVを作ったわけだけれど、その当時僕はまだ大学生。隔世の感アリ。当時深夜で放送されていた「PURE ROCK」というメタル系の番組中に、日本での初公開!と大々的に放送された。

 

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 ジェームス、痩せてるなあ。ファンならば誰でも知っているだろうけれど、元ネタは『ジョニーは戦場へ行った』という映画だ。地雷で両手両足を失い、口も聞けなくなったジョニーは、父親とかつて遊んだ頭を動かすモールス信号を使い、「KILL ME」とひたすら訴える。かなりヘヴィーな映画だ。

 まあ、どうしてもメタル系の歌詞って、音楽性と相まってこういう戦争系のものが多いよね。ちょっと思い浮かべただけでも、メタリカなら3RDの『ディスポーザブル・ヒーローズ』とか、アイアン・メイデンの『エイシズ・ハイ』とか、ソドムの『エージェント・オレンジ』とか。まあ、メタルバンドが「あなたに会いたい・・・だけど会えなくてー」みたいなことを歌うのも驚くけれど。でも逆にそれって新鮮じゃない?音はゴリゴリハードなのに、歌詞は日常を頑張る女性の応援歌みたいな。あれ、BAND―MAIDはそれに近いものがあるか。

 

 話がそれた。『ONE』の話。

 僕この曲が発表されるやいなや、その当時やっていたメタリカコピーバンドでやったよ。我ながらよくやったよね。ドラムが上手かったからキチンと完奏できた。だからこの曲のチョイスはその思い出に基づいている。まあ、そうでなくても彼らの代表曲ではあるけれど。

 クリーンなトーンから一気にディストーション、というのは何もニルヴァーナが先駆じゃなくって既にメタリカが『FADE TO BLACK』で確立していた訳だけれど、ここぞとばかりにかぶさってくるエッジの効いた激しいギターはいつ聴いても心地よい。まあ、『JUSTICE』アルバムは音質に関しては非常に評判が悪いけれど、今はYOUTUBEでファンが勝手にミックスした『ベースの音デカ、スネアの音改良バージョン』がいくらでも聴けるいい時代だ。

 

 では、小説の演奏場面です。面倒なら飛ばしてくださいな。

 

ヘビーメタルと文芸少女  第100話

   ――世界は無くなり、俺はただ一人・・・神よ!

 そして曲はそれまでの悲哀に満ちた表情を変え、いよいよ怒りのエネルギーを込めた重厚なメタルサウンドへと移っていく。エフェクターで濁った、それでいて伸びやかな暗い和音がエモーショナルな響きを生み出し、聴く者すべての魂を揺さぶった。それにつれてキイチのドラムは次第に激しさを増していった。

 ダン!ダン!ダン!ダン!という頭打ちの強烈なスネアの連打と、クラッシュシンバルの響きで“ワン”は曲前半のピークを迎え、そのボルテージが最高潮に達した時、ざーん・・・とEの開放弦の音が講堂に鳴り響いた。

 ほんのわずかの間、いつの間にか通底して流れていたどどどどどどっというバスドラの6連譜のみが聴こえた。しかしすかさず次の瞬間には、その6連譜に合わせたユリカとマヤの

 ザザザザザザン!ザザザザザザン!

 という機関銃の連射を思わせるリフが乾いた音で鳴り響いた。

 それに合わせてフロントの3人はうつむき、腰から折れてしまうのではないかというほどのヘッドバンギングをひたすら繰り返す。デスピノから放出されるオーラは鬼気迫るものがあった。

 ――地雷が俺を地獄に取り残した!

 マヤが繰り返される6連譜のリフに載せて最後のフレーズを歌い終わると曲はズンタン、ズンタンと8ビートで疾走し始めた。そして、そのビートのつなぎ目ではスネアと共にリフの機銃掃射が

 ダダダダダダダ!ダダダダダダダ!ダダダダン!

 ダダダダダダダ!ダダダダダダダ!ダダダダン!

 と容赦なく観客に襲いかかる。

 客はそれを受けて頭を振り、飛び跳ね、モッシュした。さらには高揚した客の間から次々と人が湧き出るように飛び出して、人波の上を泳いでいく。無数の観客の腕が彼らを運ぶ。そして彼らはステージまで泳ぎ切ったところで、そこから再び観客の間へとダイヴしていく。

 ユリカは正確に音符を刻みながら、泳いでは飛んでいく人の動きを眺めていた。

 ――スゴイ!スゴイ!わたしたちの演奏でみんなダイヴし始めている。もっと飛べ!みんなもっと飛べ!

 何人も飛んでいる人間の中に、ユリカはあのバナナフィッシュの少年の姿も認めた。

 ――ああ、約束通りダイヴしてる!わたしも負けないぞ!

 そうしてユリカはライトハンド奏法で“ワン”のギターソロをスタートさせた。観客の反応が一段と大きくなる。皆が彼女に注目していた。それに応え、ユリカは目にも止まらないほどの指の動きで、このメタル史上に輝くソロをステージ最前列で披露した。ギターソロそのものと化したユリカの両側では、次から次へと若者たちが彼女を崇めるようにダイヴしていく。彼女はキイチの叩くリズムと、マヤとソメノのバッキングに合わせて寸分の狂いもなくメロディーを弾きながら、ギターを上下させて激しいアクションを決める。

 ソロを終えると、すかさず今度は終盤のマヤとのツインリードに突入する。

 マヤ、ユリカ、ソメノの3人はステージ中央でそれぞれ向き合い、三つどもえの戦いのように火花を散らしてノイジーで美しい旋律を一心不乱に演奏する。

 そしてツインリードを弾き終えたマヤはマイクに向かう。スネアとシンバルのタン!タン!というリズムに合わせて彼女は

 ――ヘイ!ヘイ!

 と右の拳を振り上げながら叫び、観客を挑発する。全員がそれを受けて

 ――ヘイ!ヘイ!

 と同時に叫び返す。数回それを繰り返し、クラッシュシンバルの乱れ打ちに続く

 ダダダダダダダ!ダダダダダダダン!

 というトドメの6連譜で“ワン”は終わりを迎えた。

 完璧で凄まじい迫力の演奏であった。曲は終わったのに、まだその余韻は会場に残っている。

 

 お疲れ様でした。さて、もう一曲最後は『DAMAGE INC.』。メタリカの中でも特に僕が好きな曲デス。これもやっぱり昔バンドでやったっけ。

 

      最初の一分くらいは全部ベースのソロです。その後のスピードアップ!

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 とにかく小説の構想中からこの曲でのシメというのが頭にあって、そこで主人公ユリカがダイヴするという絵も完璧に思い浮かんでいた。だからこれを書いている最中は自動的に手が動いて、とても実した時間が過ごせた。では、その場面をどうぞ。

 

 

    ヘビーメタルと文芸少女 第101話

 

 ガッガッガッ!ガーガガガ

 ガッガッガッ!ガーガガガ

 ガッガッガッガッガッガッガッガッ

 ガッガッガッガッガッガッガッガッ

 

 デスピノは最重量級のEのコードで「ダメージ・インク」のイントロのコードを叩き出し、キイチのスネアのロールで導かれた曲は一気に狂ったようなスピードで暴走し始めた。

 メタリカのレパートリーの中でも最も速さと破壊力があるこの曲で、観客たちのテンションはすぐさま沸点に達した。間髪入れずにサークルピットが発生し、再び群集の中から何人もの人間が沸き出るように現れ、人の波に運ばれてステージに到達するやいなやダイヴを繰り返す。講堂はカオス状態となり、デスピノの演奏がさらにそれを加速する。観客はみんな我を忘れて叫び、暴れ、飛び跳ねた。

 ――ディリンアウジエゴニーウィズイン!

 猛スピードでリフを刻みながらマヤは絶叫に近い声で歌いだす。ユリカもソメノもユニゾンでリフを繰り出し、その速さに遅れることなくひたすら演奏に没頭している。

 ――ブラッドウィル、フォーロー、ブラッアーッ!

 ――ダーイン、ターイムイズ、ヒー!

 マヤが叫ぶと、そこで一瞬曲が止まった。そしてその静寂の間を、

 ――ダメージインコーポーレリッ・・・

 というマヤのつぶやきだけが埋め、すぐさま

 ガッガッガッ!ガーガガガ

 ガッガッガッ!ガーガガガ

 という岩を砕くようなギターが炸裂した。

 曲は再び強烈な速さで爆走し、ステージからダイヴの雨をふらせた。

 ――もうなんだかよくわからないけど、とにかく今わたしはすごい場所にいる。わたしの目の前をたくさんの男の子が這い上がってはダイヴしていく。おっと、ぶつかるよ!でもみんな一応私を避けてくれるみたい。本当に壮観だ。みんなケガしないでね・・・。

 これぞスラッシュメタル!といえるザクザクとした「ダメージ・インク」のクランチ・リフを、あたかも機械仕掛けのような左腕の動きと、これまたその細い腕からは想像もつかないようなハードなオルタネイト・ピッキングで繰り出しながら、ユリカは目の前で繰り広げられている壮絶な光景を眺めていた。

 そして曲は2度目の

 ――ダメージインコーポーレリッ・・・

 で一旦ブレイクし、テンポチェンジをする。マヤとユリカは6弦の開放を含んだトリッキーでクールなリフをまるでナイフで切り裂くような鋭さで同時に奏でた。

 ――ウィチューアンスピニュアウツ!

 ――ウィラフエンユスクリームアンシャウツ!

 マヤが6弦Eの開放をエクスプローラーを叩くようにはじいて叫ぶ。

 先程までダイヴを繰り返していた若者たちは、一旦落とされたテンポに合わせてゆったりとした動きをみせる。しかしそれは、まるで噴火直前の火山のマグマがふつふつと煮えたぎるような、今にも暴発しそうなエネルギーをたたえていた。彼らは次の噴火の瞬間を待っていた。マヤのヴォーカルがそのカウントダウンだ。

 ――オーフリーウィズフィアユラン!

 ――ユーノウジャスウェアウィカムフロム、ダメージインコーポーレリッ・・・

 そしていよいよその瞬間は来た。

 ――ゴー!

 マヤの掛け声と同時に曲は凶暴に走り出し、観客は大爆発を起こした。

 それと同時にユリカも獰猛な勢いで、ドリルで金属を突き刺すようなソロを開始した。

 ユリカの前にいる観客たちは両手を伸ばしてユリカの奏でるメロディを受け止め、さらに求めようとしていた。切っ先の長い剣をぶんぶんと振り回すような彼女のギターソロが容赦なく周囲のものをなぎ倒していく。マヤとソメノはユリカを援護するE音の16分音符のマシンガンの乱れ撃ちを続ける。キイチのドラムはハイスピードを保ったまま一分もずれることなく、ギターの3人を支えていた。

 

 曲を聴きながら読んでいただくとよりわかりやすいかと。

 さて、長々とした記事になってますが、皆さんついてきてくれましたかね・・・。これを読んで少しでも興味を持って頂ければ嬉しいです。誰か出版して!