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今さら三崎亜記『となり町戦争』を読んだ あとホビット

 先週の土曜日は小4の娘のピアノのアンサンブルコンテストだった。やや大きめの書店の最上階にあるホールで行われたんだけれど、僕はアッシー(死語)としての父親の役割を果たしたのち、娘の出番を待つため2時間もの空き時間ができた。妻にも「ここにいても仕方がないから本屋でもみてくればあ」と半ば厄介払いの形で子供達とママグループ、おじいちゃん・おばあちゃん、そして数少ない父親たちでごった返す狭い会場を出た。

 

 その書店は何故か新刊書店とは別に古本屋を丸々ひとフロアを展開していた。僕はほとんど人けのないその場所へと足を踏み入れると、なんだか古本屋に久々に来たなあという妙な感慨に襲われた。

 最近はアマゾンかブックオフでしか本を買わないので、オーソドックスな雰囲気の古本屋は久しぶりに心地がよかった。まずはハヤカワSF文庫を探してみる。僕は毎日浴槽で読書をする習慣があるのだが、そのゆったりした時間にはSFがちょうどいいのだ。しかし、「ハ行」の出版社にハヤカワはなく、申し訳程度に外国文学の場所に数冊程度置いてあるのみだ。ハインラインの大傑作『夏の扉』があったが読んだし、古臭いシリーズものしか置いてなかったのでハヤカワはパス。次に美術関係や古い文学全集などをゆっくりと眺めることにした。あぶなく「宇津保物語」や「万葉集注釈」などのヘビーな書物を買いそうになるが、気合も読む暇もナイでしょ、とブレーキをかける。

 店にはちらほら年配の男性の姿が見られるだけどほとんど客はいない。「あっ、さくらいさんがここにあるの知らなかったなー」と独り言を強めの声でいうおじさんの傍らを通り抜けると100円特価コーナー発見。僕はこういうところから自分に向けてオーラを出している本を見つけるのは得意なのだ。そうして、見つけましたよ、この2冊。

 

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 「ホビット」は子供用。4年の娘が図書館から借りて読んでいたんだけど、長いのでどうしても返却期限前に読みきれず返す、ということを繰り返していたのでちょうど良かった。ただ、こちら改訂版のために多少表記が異なり旧版の良さが少し薄れている。例えば竜の「スマウグ」が「スモーグ」となっていたり、「りゅうの荒らし場」という素晴らしい訳語も「スモーグによる荒廃」と変わっており、少し残念。

 

 その一方で挿絵は充実している。これを持って上の階で出番を待っている娘に見せたら「あ!ホビット!」と大喜びしていた。ちなみ最近娘はシャーロック・ホームズ熱が再燃しホームズばかりを読んでいる。

 

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 ただ、少し低学年向けの内容なので物足りないようだ。夏休みにはDVDで一緒に「バスカヴィル家の犬」を見ようとしたのだけれど、色々あって最初の30分しか見られなかった。子供も色々と忙しいのだ。

 

 さて、もう一冊の『となり町戦争』。

 

となり町戦争 (集英社文庫)

となり町戦争 (集英社文庫)

 

 

三崎亜記氏の作品は以前、これまた格安で『鼓笛隊の襲来』を買い、

 

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 その筆力に舌を巻いた記憶がある。アマゾンの書評で「軽い文体」とか言っている人がいたか、そうか?かなりこの人はレトリックにも凝っているし、作劇の方法もうまいぞ。ただ、一方でこの短編集を読んだ印象は「筒井康隆が好きに違いない」だった。日常と非日常を混在させる手法は筒井氏の得意とするところだ。

 中学生で『アフリカの爆弾』を読み衝撃を受け、「ウィークエンドシャッフル」や「トラブル」といった作品が大好きで、高校の時に『筒井康隆全集』が出るたびに読みあさったツツイストたる僕としてはそう思うのだ。そして組織の中の不条理という点ではまさにカフカの描く世界に似ている。

 官僚機構の不条理という点でカフカを連想しつつも、その一方で僕は『となり町戦争』にかかわらず三崎作品に度々登場する舞台としての「役所」の詳細な描写からしてこの人公務員だったんだろうな、と思ってググったらやっぱりそうだった。

 

 しかし、実はそんなことよりももっと驚いたことは、僕、三崎亜記という作者名からずううっと女性作家だと思い込んでいたわけですよ。そのイメージで『鼓笛隊の襲来』を読み、今回の『となり町戦争』 を読んで「なるほどこのあたりは女性ならではの視点で書かれているのか」と勝手な解釈をしていたら、男性だった!それさっき知ってびっくりした。あるんだねえ、こういうこと。もちろん作品の価値には関係ないんだけど、やっぱり女性が書いた作品として読んでいたというのは印象に多少なりとも影響はあるのではないか。

 つづく。

 

 

この小説、未だにフォロワーがちらほら増えるんですけどPVはそんなに伸びていないのは何故?あれかね、一応フォローしてあとで読もう、って感じなのかしら。あーもっと読まれないかなあ!

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