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小説を書くこと と そこそこであること

これは小説です。抜粋ですので、なんとか読んでみてください、お願いです!すぐ終わりますから!飛ばし読みでもいいですから!

 

 プロローグ

 「田舎風景になってきましたなぁ。」

小学六年生になった僕は車にゆられて眠りそうになりながらも、お父さんに話しかけた。

「あぁ、そうだなぁ・・・お、建(たける)、トンネルが見えてきたぞ。このトンネルをぬければ利根川が見えるはずだ。今日一泊する『くつろぎの宿』も近いぞ。」

 僕は、家族旅行で山にきていた。六年生になったお祝いという意味もあったし、山にいけば、住んでいる街とはちがう気分になれるからという意味もあった。

 「ガタン、ゴゴゴゴゴゴゴ!」

 すさまじい音がして、辺りがまっ暗になった。トンネルに入ったのだ。

 「こりゃぁ、ずいぶん長いトンネルだな。」

トンネルの音は、僕の眠気もさましてしまうほどだった。

 やがてその長いトンネルも終わり、前が開けてきた。山の上に、ぽつんと小さな建物が見えた。あれがきっと、『くつろぎの宿』だろう。

 宿についたら急にひまになった。そこを、お母さんが、

 「たいくつそうね。外にでも、遊びに行ったら?」

 と話しかけてくれた。お母さんは、こういう時にだけ変にやさしい。ふだんもやさしくしてほしいものだ。内心そう思いながら、

 「お母さん、ありがとうございます。さっそく、外で遊んで来ます。」

と言って外にとびだしていった。べつに、行きたい場所があるわけでもないが。

 

     1 不思議な世界に迷い込む

 

  いつの間にかさっきのトンネルの所まで来ていた。僕は、そのとなりにも小さな古いトンネルがあるのを見つけた。面白そうなので、少し入ってみることにした。

 「うあああああああああっ!?」

 トンネルをぬけた時、僕は恐ろしいものを見てしまったのだ。顔に目も口もなく、おまけに服まで着ていない黒い人間のかげのようなやせほそった生物が、木を切ったり、石を運んだりしている。帰ろうとしてトンネルの方を振り返ると、もうそこには何もなかった。

 「あぁ、ううぅ・・・。」

 怖くて、怖くて、僕はその場に立ちすくんでしまった。でも、もう何をしても無駄なことは分かっていた。叫んだって、走り回ったって、出口に通じるトンネルは現れないのだ。

 「一度こっちに来た者ぁ、二度と帰れねぇようにな仕組みになってんでっさぁ。」

 黒いかげの少しぶきみな声がした。

 「その仕組みって、どういう仕組み・・?」

  言葉の最後のほうは少し消えかかっていた。それでも、黒いかげには聞こえたらしく、

 「それぁわかんねえがなぁ。ちょい、そこにこしかけてみぃ。」

 僕は岩の上にこしかけた。

 「ここはなぁ、昔、おまえさんが住んどる町みてぇに、平和で、すばらしい場所だったんや。だがな、七十年も経つと、そのすばらしい場所も、たった十人の貴族にとられちまってさぁ。こうして今じゃぁ、奴隷として、働かせられてるんでぇさぁ。」

 「でも、・・。」

 僕はふるえながら言った。

 「貴族とは戦ったのですよね。たった十人だけなのに、たおせなかったのですか。」

 「戦っちゃぁいねぇ。」

 「じゃあ、どうしたのですか。自分から、ゆずったのですか。」

 「いや、ちげぇ。この世界では、勝ち負けが、身分の高さで決まっちまうんでさ。おれたち住民は、貴族たちから見りゃぁ、奴隷の身分だったんでさぁ。おまえさんも、働かなきゃならねぇ。そうしねぇと、餓死しちまうよぉ。」

 黒いかげが言い終わったちょうどその時、上のほうから声が聞こえてきた。

 「おい、黒ぼうども、働け!働かないと、晩飯はぬきだぞ。」

みあげてみるとそこには、立派な城が建てられていて、最上階の窓に一人の貴族の顔が見えた。

 「あれ、貴族は一人しか見えませんよ。ほかの貴族たちはどこにいるのですか?」

 「それはだな、」

 黒いかげはすこし間をおいて言った。

 「それはだ、つまり、死んじまったっつうことだ。二人が自殺、三人が病気で、四人が歳をとってぇなぁ。だから、今残っている貴族はたった一人、ビルグーだけなんだな。あぁ、そう、黒ぼうはおれたちのことすぁ。さ、おれぁ、もう、働かなきゃいけねぇ。おまえさんは、なんちゅぅなまえだね?」

 「あ・・え、実山(みのりやま) 建(たける)です。」

 「おぉ、建か。では、建。今日は働かねぇでパワーをためとくんだぁな。今日一日は、ビルグーの目に見えぬからな。もちろん、どうしてだからかは分からねぇがな。は、は、は。」

 黒ぼうは働きに行ってしまった。

僕は、黒ぼうの手首にそれぞれちがった番号がかかれたシールがはってあるのに気がついた。なるほど、これを使えばある黒ぼうが働いていない時に、

「○○番、ちゃんと働け!」

と命令をすることができる。ビルグーもよく考えるものだ。

辺りが暗くなってきて、ビルグーが黒ぼうたちの仕事をやめさせた。ビルグーは、黒ぼうたちをそまつな小屋に連れて行き、パンひときれとリンゴ一個とコップ一杯の水を一人一人に配ると、城のほうにいってしまった。

 僕は、城の中を少しのぞいてみることにした。

門は、とても大きかった。上のほうにはたくましいライオンがえがかれていて、門の両側に細かい花の模様がほられていた。まんなかのちょうど僕の目線ぐらいの所には、『大王城(おおきみしろ)』の文字がきざまれていた。

門の所で止まっていると肝心の中を見ることができないので、僕はどんどん進んだ。城は、迷路のようになっていた。もし、案内図がなければ、ここに住んでいるビルグーだって迷子になったことだろう。

 迷路もすごかったが、僕が一番おどろいたのは、壁や床にほどこされていたしかけだった。隠し扉や落とし穴があったり、順番にボタンを押すと地下への階段が現れたりと、

「これこそ、本当の忍者屋敷だ!」

 と思ったほどだった。

 ビルグーの部屋は、地下十一階だ。僕はそこに着くまでに、落とし穴に六回はまって、道を十三回まちがえた。

 夜の暗い廊下に、ドアののぞき窓から、うすく光がさしこんでいた。僕は、そののぞき窓から部屋の中をのぞいた。

 部屋は、六十畳はあった。遠くから見たときは分からなかったのだが、ビルグーは、ものすごい顔をしていることが分かった。体の大きさや形はなんとなく人間に似ていたが、頭には大きな角が生えていて、口は他の目や鼻に比べて大きすぎていた。黒ぼうたちに食べさせていた粗末な食事とはちがって、ぜいたくな和牛ステーキや大きなグラタンを大きなテーブルにずらりとならべて、満足そうにフォークとナイフを動かしていた。

僕も一度は、こんなぜいたくな生活をしてみたいものだ。無論、それは無理な話だが。

 

 ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。!

作者の方はこちら。

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はい、小4の僕の娘です。昨日10歳になりました。質素な誕生日ケーキ。

        

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 今の時点でこういうものを書き、それが10歳という年齢だということでの驚きがあると思う。ただ、あと15年経って彼女がどういう風に成長するのかはわからないがその時にこういうものを書いてもほとんど評価されないだろう。

 

 翻って考えてみると、僕も最近いい年をしていくつか小説を書いたが、局地的に読まれただけで(それでも大変栄誉なことだけれど)それが多くの人に読まれたり、ましてや本として形をとるわけではない。

 なんで小説を書くのだろう。最初の作品は、いつの間にか心にストーリーが浮かび、それを形にしたいという欲求に突き動かされて一気呵成に仕上げてしまったという感じだった。まあ、それでも半年くらいかかったわけですが、初めて書いた小説ということもあって書いている時作品が形になるという新鮮な喜びがあった。

 

 そうして色々あって「カクヨム」に『ヘビーメタルと文芸少女』という小説を投稿してそれなりに読んでくれる方がいて、書き手としての喜びをホンの少し味わった。

kakuyomu.jp

 

 その勢いで子供のためにもう一作書いてみた。こちらも自然と浮かんだストーリーがあって、それがうまい具合にまとまったのだ。

kakuyomu.jp

 

どちらも特に書き手を想定せずに、書きたいから書いた、そういう作品だ。

そうして調子に乗って3作目に着手した。

 

kakuyomu.jp

 僕の大好きな『古事記』とバンドを掛け合わせたファンタジーだ。この作品も、もちろん自然と浮かんだ構想が元になっているのだが、別の動機も働いていた。つまり、最初から「カクヨム」投稿を目的としてある程度ウケを狙ったところもあるのだ。

 僕が小説を投稿する場合、今までの2作は既に完成している状態であったから、毎日少しずつコピペをすれば済んでいた。ところがこの『ギルモアヘッド』に関してはある程度書いた時点でコンテストに応募するという色気が出たため見切り発車で投稿を始めたのだ。

 結果から言うと現状ほとんど読まれていない。

 はっきりいってこれは書き手としてはつらい。だからこの小説、ある程度は書いてあるので投稿は続けているのだが、現時点でその続きを書く気が中々起こらず、どうしようかと思っている。

 

 人間誰しも承認欲求がある。僕もそれを満たすための手段としてブログを書いたり、小説を書いたりしているのだろうが、実際は中々上手くいかないものだ。僕はブログと小説と書評を書いているが、どれも「そこそこ」。これは僕自身が一番良くわかっている。なぜなら今までも僕は「そこそこ」だったからだ。

 

 15歳でベースを初めて、今ではレッチリも弾けるくらいなので、周りからは「上手いねえ」と一目置かれるが、プロになれるレベルではない。

 

 小学生~中学生にかけては絵がうまいやつということで通っていたが、もっと上手な人はたくさんいた。小5くらいの時に、何かの間違いで自転車を描いた絵がとある企業の主催するコンクールに入選して沢山の商品をもらい、いい気になって次の年は、写真を見て機関車を描いたが、当然落選。なんか今の小説の状況に非常によく似ている。やはり無欲が大事だ。絵も「そこそこ」。

 

 他にも色々なものに手を出してみたのだけれど、どれもが「そこそこ」でいわゆるこれが「器用貧乏」なのではないかと思っている。中島敦の小説『山月記』の李徴の気持ちがよくわかる。・・・こういう文学知識もそこそこ。

 

 僕はこれからも「そこそこ」で生きて行くのだろう。

 まあそれはそれとして、娘はどうなのだろう。

 

 彼女は小説を「書きたい」から書いている。昨日も「新しい物語を思いついた」と言いながらあっという間に小説の舞台の国を描きだした。

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 人に読まれるためではなく、自分が書きたいから書く、という作品。もちろん、僕や母親や先生に見せるけれどもそこにヘンな色気はない。純粋な子供の考える物語だ。

 

 彼女には「そこそこ」ではない才能を求めるのは親の欲目だろうなあ。でも、あわよくば、何かの分野でひとかどの人物になって、僕に楽をさせてくれないかなあ!

 長文駄文失礼いたしました。