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カクヨムにおける『ヘビーメタルと文芸少女』のいま

 自分の作品を多くの不特定多数の人間に見てもらえるという点では、今はいい時代だ。うまくすれば何万分の1くらいの確率でそれが日の目をみる。

 

kakuyomu.jp

 僕は小2の娘にメタリカを聴かせた経験が元になってこの物語を思いついた。それまで小説など書いたことがなかったが、今までの読書体験の蓄積があり、言葉に携わる仕事をしているのでひょっとしたら書けるんじゃないか?と思い、ワードを立ち上げ、物語を紡いでいった。最初の数行は若干の羞恥も感じたが、書いていくうちにそれは失せ、ほぼ自動的に指が動くようになっていった。

 小説の作法もいろいろあるだろうが、僕の場合は全体のストーリーがおぼろげに浮かんだのだった。魚の骨を思い浮かべてもらうといいかもしれない。頭と尻尾は決まっているのだ。そうして、徐々に肉=エピソードがついていく。一番発想が冴えるのは入浴している時だ。特に、風呂を上がり、体を拭いているときにふっとアイディアが湧くのだ。

 毎日少しずつ、会社から帰っては書き、休み時間に書き、子供を寝かしつけたあとに書き、正月妻の実家へ行った時もパソコンを持って一人夜中に書き、半年間かけてようやく完成にこぎつけた。その量、18万9846文字。

 執筆中は妙な高揚感に僕は包まれていた。あれこれとアイディアが浮かび、仕事中に結末を思いついては一人で密かに感動し、最後の一行を書き終えては一人で感無量になっていた。しかし、このことは誰にも知らせなかった。やっぱり小説を書いているって言い出しにくいよね。しかもいい年して。

 もちろん、せっかく書いたのだから何かしらの賞に応募しようとは思っていたのだ。しかし!ここで問題が。調べていくうちに、この作品はことごとく容量オーバーで応募できないのだ。ようやく条件に叶う賞がポプラ社の新人賞だった。それでも原稿用紙500枚分が条件だったので僕は泣く泣くエピソードを削り、ギリギリ500枚ぴったりに作品を縮めた。誰にも内緒で原稿を郵便局からわざわざ書留で発送した。

 

 もちろん今これを書いているということは、結果が出せなかったということだ。正直に言えば一次選考くらいは通るんじゃないか、などと少しは思っていた。あまつさえ、ひょっとしたらまかり間違って大賞で200万円!旅行行くぞ!とか、もし本が出たら会社になんて報告しようか、とか、映画化されたらマヤ役は小松菜々子がいいなだとか、いらぬ心配をしていたものだ。まったくもっておめでたき人である。

 

 11月の末にドキドキしながらウェブで一次選考の結果を確認したが、「ヘビーメタルと文芸少女」の文字はどこにもなかった。5分くらい落ち込んだ。

 一番の原因は力不足なのだろう。それに尽きる。あとは題材がなんといってもニッチすぎるのか。いきなり「ヘビーメタル」だもんな。メタリカは世界的バンドであるとはいえ、それを題材とした小説を出版、なんて考える編集者はいないだろう。きっと下読みの時点で外されていたかもしれない。

 だが選考者にとってはワンナオブゼムであっても僕にとってはオンリーワンである!このままで終わらせたら、何のために書いていたのかわからない。僕はすぐに小説投稿サイトを探し始めた。一番有名な「小説家になろう」も考えたのだが、ライトノベルが主な作品群のこのサイトに、僕の小説には不向きだろうと考え、比較的新しく、分野も色々と別れて投稿もしやすそうだった「カクヨム」を選んだ。

 と同時にこのブログも立ち上げた。いつか小説の読者をこっちに導いて、ブログの読者も小説を読んでもらって・・・と思ったのだ。で、今に至っている。 

 

 この小説で僕は目指したもののひとつは、メタルバンドのライヴをなんとか言葉で表現できないかということだった。僕だって歴30年近いバンドマンの端くれである。

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 僕です。ベースの方ね。僕はいつもこんなふうにライヴではしゃいでいたのだ。

 あの高揚感を表現したい。そう思って書いた。以下は小説の中盤、コンテストの予選ライヴシーンの抜粋である。少し長いかもしれない。でもこんな感じで僕は言葉を組み合わせた。演奏曲は「マスター・オブ・パペッツ」!

 

          

          「ヘビーメタルと文芸少女」より抜粋

 

 ダン!ダッダッダー!

 何百回と合わせたマスターのリフをデスピノは観客に向かって炸裂させた。凄まじい音圧にライヴハウスは飲み込まれた。そしてそのままマヤはザクザクといつも以上にエッジの効いたダウンピッキングでメインのリフを刻む。ユリカ、ソメノ、キイチはそこに叩きつけるがごとく音を重ねる。

 バンドは爆音の塊を、エイトビートに乗せ踏み鳴らし始めた。そしてフロントの3人は完全にシンクロしたヘッドバンギングを展開した。狭いステージ上で長髪の女子高生3人が脇目もふらずに頭を振る姿は、見る者全員に強烈なインパクトを与えた。

 ユリカはただギターを弾くことに、バンドで演奏する喜びに陶酔していた。ふと目の前を見れば、沢山の人間が自分たちの演奏に感動している。男子も女子も、狂ったようにサイリウムを振ったり、拳を振り上げたり、ヘッドバンギングをしたりしている。ヘビーメタルが若い彼らのエネルギーを増幅し、新たなうねりを生じさせる。まるで荒れ狂う嵐の中で演奏しているようだ。そしてその嵐の中心に自分たちがいた。

 激しい前半のパートが終了し、曲は格調高いツインリードのハーモニーへと流れ込んだ。ユリカは一音一音丁寧にメロディーを描き出した。その旋律はマヤの奏でるそれと一体化し、このうえなく美しい響きを作り出す。同時に観客もそのメロディを歌い始める。気がつけばユリカは涙をひと筋流していた。この瞬間、彼女はバンドとひとつになり、そのバンドは観客と一体化していた。この空間にいる全員が素晴らしい体験を共有している。それがユリカにはかけがえのないことだと思え、涙が落ちたのである。

 マヤとユリカのツインリードが終わると、曲は荘厳なEコードによる、八分音符のズンズンズンズンという橋渡しを経て劇的に後半へと入る。ユリカの担当するソロパートへとつながる重低音のリフと、キイチのバスドラとフロアタムがまるで地響きのようにホールを揺さぶる。

 マスター!マスター!

 全員がそのリフに合わせて合唱する。

「みんなもっと叫べー!」

 マヤがよりいっそう激しく頭を振り、観客もそれに応えてより激しく叫ぶ。

「マスター!マスター!ラフィンアットマイクラーイ!」

 この歌詞を合図に、いよいよユリカのソロだ。

「ギターソロ!ユリカ!」

 マヤの号令と同時にユリカは渾身の力を込めてソロをスタートさせた。何年も弾き続けてきたこのカークハメットの個性的なソロワークを、ユリカは目をつぶってでもプレイできた。指が自動的に動き、猛禽の吠えるようなピッキングハーモニクスでメリハリをつける。旋律とともに体が勝手に動く。姿勢を低くして高音をかき鳴らす。そして観客に向かって自分のテクニックを見せつけるようにステージ前ギリギリまでおもむき、トレモロを開始した。ユリカの前にいる全員が両手を伸ばす。ギターの音が渦を巻き、その渦に飲み込まれて、まるで底なしの淵にぐるぐると沈み込んでいくような感覚が彼女を包み込み、その深みと轟音の中で指を動かし続けた。

 全員がまるでギターで雄叫びをあげているようなユリカのソロに引き込まれていた。うわあああっといううめき声とも叫び声ともつかない声が観客の中から湧き上がっている。そしてそれがユリカに新たなエネルギーを与える。最後のチョーキングに至ったところで、そのあまりの激しさに1弦がぶちっと切れた。ユリカは一瞬狼狽したがソロはここで終わりであり、1弦はもう使わない。あとは低音弦のリフのみである。ユリカはチューニングの狂いを気にしつつそのまま弾き続け、怒涛の勢いで曲は終わりを迎えた。

 

 

 

 抜粋終わり・・・・どうでしょう、音がきこえてきたかしら?この曲を知らない人に届いたのだろうか。とにかく僕は何度もマスターオブパペッツのライヴを観て、聴いてこの場面を書き上げた。

 

 投稿するにあたってぼくは「カクヨム」がいかなるサイトかをリサーチしてみた。色々な評判が書いてあったが、だんだん面倒くさくなってとにかく投稿してみよう、と決意した。最初は少し勇気が必要だった。いったい読んでくれる人がいるのだろうか、という不安とともに、自分の作品を公にするのであるから。

 

 11月26日に初投稿。もちろん読者ゼロである。数万点の作品の中に埋もれているユリカたち。僕は毎日投稿し続けた。なにせ18万字である。ネタには事欠かない。

 すると数日後、女性の読者がついた。よくも見つけてくれたものだ。コメントもしてくれて、ああ、書いてよかったなと思った。嬉しかった。継続は力なり。そのうちに好意的なコメントを寄せてくれる人が現れ、じわじわとフォロワーも増えて現在17名。さらにはこのブログと、メタリカ系の掲示板に厚かましくもリンクを貼った結果、星の数20。累計PV878。今ここである。投稿は、まだ続けます。

 読者がいるというのは本当にありがたい。カクヨム中の作品としてはそんなに多くないかもしれないが、こんなニッチな作品を読んでくれる人がいるというのは純粋に喜びである。感謝します。

 そして僕はこの喜びを励みに毎日がんばって生きている。