音楽と本

僕のカルチャーセレクトショップ

ブレードランナー2049の情報がでたとこで、ウィリアム・ギブスンについて

 ニューロマンサー

ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF)

ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF)

 

 

 初めて読んだのはいつだろう、もう20年以上前かも知れない。

 ウィリアムギブスンはいわゆる「サイバーパンク」の元祖的作家だ。サイバーパンクなんて言ったって、一般に浸透した言葉だと思えない。何というかネットを中心とした混沌とした未来像とでも言おうか。

マトリックス」とか「ブレードランナー」とか「攻殻機動隊」的な世界だ。これらの映画はこの小説が無かったら存在しなかったろう。あ、「ブレードランナー」はこの小説以前だった。

 とにかくこの「ニューロマンサー」には現在僕らが観ることのできる近未来ディストピア映画の要素のすべてがある。

 ストーリィは簡単に言えば(いえるのか?)高度に発達したA.I.が自分を解放するために「カウボーイ」と呼ばれ、ネット世界を自由に動き回ることの出来る才能を持った主人公ケイスを使って新たなステップに踏み出す、て感じ。だいぶはしょってますけど。このプロット、映画「攻殻機動隊」と似ている。一部の元ネタはこの小説だ。マトリックスだって元々監督のウォシャウスキー兄弟がこの本を映画化しようとしたが色々あって断念した結果なのだ。だから「ザイオン」とかジャックインとかのフレーズがそのままマトリックス(そもそもマトリックスという言葉もこの本から取っている)の世界観に利用されている。
 

 それはそうと何度読んでもおもしれえ!まあ、SFなので読み手を限定する小説でもある。何の説明も無しに独特の世界観を構成するフレーズが矢継ぎ早に繰り出される。いわく「スプロール」「C字型コンソール」「ソ連の連結体」といった言葉がこの手の世界観に馴染みのない読者を置き去りにする。それでも何とか我慢して読んでいくとそこに広がるのは混沌とした未来世界。

 未来は輝く未来都市ではなく、薄汚れた場末の街角にある。丁度「ブレードランナー」そのもののビジュアルイメージだ。ちなみにギブスンはこの小説の出版前に「ブレードランナー」を初めて見て、あまりにも自分の描いていた未来世界に酷似したのに驚いて途中で退席したというのはその筋では有名な話。


 この小説の魅力の一つとしてはヒロイン(といえるのか)のモリイの存在がある。両目を埋め込みのミラーグラスで覆ったこの女殺し屋のなんと魅力的なことか。

 ギブスンの他の短編に「記憶屋ジョニイ」があるが、ここでもモリイが登場する。ちなみにこの短編、1995年にキアヌリーブス主演、ビートたけし出演で映画化された。そのときのタイトルは「JM」。

 もう、ギブスンの映画だからかなり期待して見に行ったらなんだあれ。監督はロバートロンゴ。モダンアーティストで映画監督経験ゼロ。そんなやつに撮らせるなよ!最後のサイバースペースの映像にはちゃっかり「マンインザシティ」という自分の作品を紛れ込ませているし。昔何度かテレビでやったりしているから観たことのある人も多いだろう。そもそも、モリイが出てこないし。なんか権利の関係が複雑でモリイのキャラが出せなかったらしい。

 しかもヘンリーロリンズやアイスTが原作にないキャラを演じ、もう全く別物である。唯一ヤクザの手先のニンジャがそれっぽかったが、ハッピーエンドになる結末といい、かなり肩すかしをくらった。でも、脚本はギブスン自身が担当してるんだよな・・・。

 主題歌を担当していたスタッビングウェストワード(このバンド今どうしているのだろう)が良かったのでそのアルバムは買った。しかし実際はナイインインチネイルズの亜流だったが。


 ところで「ニューロマンサー」には続編「カウント・ゼロ」がある。

 こちらは「ニューロマンサー」とはまた違う構成で(3人の主人公の話が並行して進み、最後で話がまとまっていく、という凝ったもの)ぐいぐい読めてしまう。まあ、ギブスン独特の世界観なので相変わらずわかりにくいところがあったが。途中であれ、こいつ前に出てきたんだっけ?みたいなことがあるが、前作と違いアクションがふんだんに盛られているのも一つの特徴だ。

 そしてその後、さらに続編「モナリザ・オーヴァドライブ」が書かれている。

 こちらも相変わらず面白い。カウントゼロでは3カ所の話が最後にまとまっていったが、今回は4カ所の話が同時進行して最終的に収斂していく。いつものように読者を置いていくディテールの細かさ。それがまた一つの魅力だが、前作から電脳世界と相反するような土俗的なもの(ブードゥ教の神など)を登場させてサイバーワールドは思いも寄らない方向へと進んでいく。そして最後に「ケンタウルス系」が出てきたときにはえーっ、そんなところに話を持って行くの!と瞠目することしきり。

 僕はそれほど熱狂的とはいえないまでも、かなりギブスンにハマった時期があったので、結構読みましたよ。

f:id:otominarukami:20161224130131j:plain

 

 一番最後に読んだのは「パターン・レコグニション」。劇中に出てくるバズリクソンのブラックMA1が欲しいと思ったがあまりに高くて断念。

 現段階での日本語訳最新作「スプーク・カントリー」は未読なのだが、現在入手至難!ギヴスン作品、廃盤が多くて高いんだよね。「パターン・レコグニション」もアマゾンで四千円って!ギブスンって日本であんまり人気ないのかな。ギヴスン自身は日本びいきなのにね。

 だいたい「ウィリアム・ギブスン」でググると最近の記事が「ギブスン、初音ミクに言及」だし。そんで本人のツイッターを見ると大統領選の話題とか、プーチンの写真とかだし。政治的な主張をするのがむこうは当然なのだろう。しかしあんまり英語がわからないのでよくはみてないけども。

 そういえばJMの頃から「ニューロマンサー」が映画化されるという話があったが未だ実現されていない。しかも一説にはクリスカニンガム(ビョークとかエイフェックスツイン等のプロモを監督したかなり先鋭的な映像作家)が監督する、ということだったのに。クリスが撮ったらすごくなりそうなのになあ。今なら映像化だって出来るだろうになあ。